2018年回顧 映画編

2018年の劇場で見た新作映画の中から10本ということで……


1位 ジュラシックワールド/炎の王国

2位 万引き家族

3位 ランペイジ

4位  霊的ボリシェビキ

5位 シェイプオブウォーター

6位 告白小説、その結末

7位 デトロイト

8位 アベンジャー/インフィニティウォー

9位 ウインドリバー

10位 ボーダーライン/ソルジャーズデイ


炎の王国はブロックバスター映画でこんなものが観れるとは思ってなかった、というところが大きい。

今までのジュラシックシリーズを総括してこれまでのシリーズの内容を(単に運営側の間抜けさではなく)人間の世界の長期的な崩壊の先触れと位置付け、挙げ句の果てに人間の世界ががっつり終わるところを映してしまった映画だと思うんだが。ラストの恐竜が外の世界を蹂躙する点景が素晴らしく不安だ。

そこに至るまでの展開もゴシックホラーな感じでとても良いし全体的に趣味が良かった。


万引き家族は遠景のシーンが多いのにも関わらず不思議と登場人物に寄り添うようなショットが多く見受けられた。家出をした長男とそれをむかいに来た父親を写す遠景、川縁をとぼとぼと歩く長男と次女を写す遠景、そのどれもがこれ見よがしに感動を共感させようという意思を感じさせないのにも関わらず泣いてしまいそうになった。

しかしこの映画の恐ろしいところは終盤になって急激に現実と相対化させ始めるところだ。

警察の事情聴取シーンを警官側からの主観アングルで写してしまう。そしてそこで警官に部外者が言いそうな正論、要するに知りもしない他人に一方的に"正論"をぶつける俺も含む我々が言いそうなことを逐一言わせてしまう、ある種家族に感情移入してみている観客に「でも君ら普段はこういう人たち捕まえて知りもしないでこんな"正論"吐きますよね」と言い切ってしまうような感覚があり素直に泣かさない、ちゃんと物事を考えろ、というメッセージをぶち込んでくるというのが恐ろしい。誰も知らないの頃から似たようなことはやっていたけど同じことをショットとカットの構築で表現しているというのも恐ろしい


ランペイジは国外怪獣映画物だとダントツに好きかもしれん(いやパシフィックリムはロボの比率が圧倒的に大きいし)

何が良いって上映時間のタイトさでいらんサブエピソードを盛り込み無駄に2時間何分もかかる凡百のアクション映画と違って100分ちょいに抑えているのがいい。

例えば主人公を元特殊部隊員で霊長類学者にするっていうのもいかにめんどくさい部分をすっ飛ばして怪獣同士の潰し合いに移行するか、要するに怪獣同士の戦い描きてえんだけ、キャラの深み?整合性?共感出来るキャラか?糞食らえ!というところを感じてとてもよろしい

あと軍事的なディテールのそれっぽさも案外悪くない。怪獣の展開速度が速すぎて州軍は対応に追われるとか結構それっぽいし。

あとOGAのおっさんがいいキャラしている。


霊的ボリシェビキはなんかもはや映画批評本の枠を軽々超え半ば魔道書とかしている傑作映画の魔を書き、黒沢清映画の脚本を書き、jホラーの一時代を築いた女優霊の脚本を書いた何も関わらず監督としてはいまいち予算とやろうとしていることが噛み合わず何とも言えない映画を撮っていた高橋洋。が少ない予算で自分の起こそうとしている事の片鱗を見せることが出来た映画だと思う。最後の木の塊が落ちてくるシーンの嫌さはガチ。あと怪談を話しながらボリシェビキ党歌を歌うなんてけったいなシーンが観れるのはこの映画くらいだと思う


シェイプオブウォーターは半魚人映画、モンスター映画の歴史を踏まえた上でそれをラブロマンスに変換してみせる手腕が見事。あと単純にいろんな造形面のセンスが良い。人間の美形なんぞよりモンスターのほうが億倍かっけえわ!って言うデルトロの思いが伝わるような半魚人の異形にも関わらず優雅さを感じさせるプロモーションも良いし、冷戦ゴシックを感じさせる研究所の佇まいも良い。

 

告白小説はポランスキーとしちゃあ普通なんだけど単純にカットとショットの不穏さが良い。あとポランスキー映画における暴力はワンテンポ遅れてやってくる、っていう事に気がついたんだがそれは別の記事で書く


デトロイトは実際に起こった事件を描く事にとことん真摯な映画だと思われ。そもそも人間は主観に凝り固まった生き物だから事実を客観的に描くなんてのは不可能なんだけどこの映画はかなり凄いところまでいった感じはある。具体的な悪人はいないのに悪化していく状況を描いてしまった映画だと思う(あのクソ警官にしても本人的にはまじめに仕事してるだけだからね)


インフィニティーウォーは構造レベルでヴィランのサノスを主人公に映画を撮っててすげえ。話の配分時間といいマーベル恒例のエンドロール後の○○は帰ってくるをサノスは帰ってくる、ってやったり。なんかもうサノス最高。宇宙の安寧秩序を慮っているのにクソ迷惑でクソ傲慢なとことか最高。戦闘シーンも全編わたっていいです。

あとサノスが回想入るときの導入インフィニティストーンの能力で幻覚を発生させる、って言うのが回想の入り方としてはスムーズだと感じた。


ウインドリバーは弾着時の防弾ベストを着ているのといないので反動の受け方が違う、というのを撮っててそこが好きだったりする。いやそこらへんは詳しくないんだけどそれっぽさがあった。静謐に話が進んでいく前半と終盤の狙撃シーンの派手さは緩急あって見てておおっ!となった。あとシェリダンは居た堪れないシーンを撮る人だ、というのはこれとソルジャーズデイを見て感じました。少女殺しの容疑者だった兄貴が別件で逮捕されると思って一通り暴れたあと捕まって妹の死を伝えられて泣き始めるシーンの居たたまれなさはちょっとないくらいだ。


ソルジャーズデイはヴィルヌーヴの一作目に比べると落ちるんだけどそれでもよかった。

のっけからアメリカ政府がテロに関与したソマリアの海賊相手にボーダーライン一作目で麻薬カルテルがやった"自分の意に沿わない相手の家族を殺していき意のままにする"っていう手段を取る姿を映すことである種カルテルと国家の間に区別をつけない、本質的には同族である、という身もふたもない話をやってしまったのは驚いた。

アレハンドロとマットに関してはキャラを掘り下げた結果2人ともある意味人間になっちゃった感じがあるんだけどアレハンドロの娘が聾唖だった、ということが判明するシーンはある種のエピファニーというか深く沈殿させていた遣る瀬無いものが浮かび上がってしまった感があって居たたまれなくさせられた。

カットとしては爆弾テロのシーンの長回しとかアレハンドロが顔を撃ち抜けてからの一連の流れは凄い良かったと思う。あのブラックホークの撮り方かなり好き。